フィッシャーマン・ジャパン(宮城県)


http://fishermanjapan.com/

漁師の基地からはじまる、未来を担うひとづくり

宮城県で震災後に海を離れた漁師は約3000人(※)。担い手不足に直面した三陸の若い漁師たちは、「2024年までに1000人のフィッシャーマンを増やす」ことを掲げ、昨年新たに「漁師の基地」をつくりました。人が集い、ともに暮らすその場所は今、水産業の未来を担う若者たちの新たな挑戦の舞台となっています。

被災したまちにできた水産業とつながるきっかけの場所

宮城県では震災以降、漁を継続できずに海を離れる漁師があとを絶たず、廃業した漁師が3割に達しました。県内の漁師のうち39歳以下はわずか15%(※)。担い手全体が減少の一途をたどる今、若い後継者の育成が急務となっています。
この深刻化する担い手不足を食い止めるべく、新しく漁師を目指す人を受け入れるためのプロジェクトを始動させたのは、一般社団法人「フィッシャーマン・ジャパン」。マイナスイメージが付きまとう水産業のイメージを「新3K=カッコいい、稼げる、革新的」に塗り替え、未来を担う世代があこがれる職業にしようと集まった三陸の若手漁師たちです。彼らは、水産業の世界に飛び込んだ若者がずっと働ける環境をつくるため、津波を免れた空き家を改修し、2015年、宮城県女川町と同県石巻市十三浜に漁師が暮らせる「トリトン・ベース」を完成させました。
このプロジェクトを中心となって進めている鈴木真悟さんは、震災を機に生まれ育った女川町にUターン。祖父が経営する水産会社に入社し、自身も銀鮭漁師になりました。
「この5年間、復興支援がきっかけで女川を訪れ、海の世界に興味を持ってくれる人もいました。なのにほとんどの家屋が被災して住む場所がないこのまちでは、引き止めることができなかったんです」。

トリトン・ベースは「水産業とつながるきっかけの場所」だと鈴木さんは言います。漁師を志す人の住居としてだけではなく、昨年は水産業に親しみをもってもらうための体験イベントの会場としても活用しました。
「今まで漁師をやってみたいと思う人がいても、相談する場所がありませんでした。地域性や漁の種類もいろいろありますから、やってみて自分に合わないということもあるでしょう。そういう時、次の職場について相談する場所があれば、知らない土地で路頭に迷うこともありません。地域を限定せず、活躍する場所をオープンにすることで、働く場所も増え、生活基盤のサポートにもなります」。

人が集まり、出会い、動き始めた漁師の基地

海が見える高台にできた女川町のトリトン・ベース。ちいさな平屋建てのこの基地には、今年から新しい入居者が住み始めています。早坂信秀さんは、鈴木さんより1歳下の27歳。大学で海洋学を学んだあと、一度サラリーマンになりましたが、魚を扱う仕事へのあこがれは消えず、香川県で鯛などの養殖に携わっていました。そろそろ実家のある山形県の近くでと考えていた頃、偶然新聞で見つけたのがフィッシャーマン・ジャパンの記事でした。
「見学に訪れた時に三陸の各漁場をひととおり見せてもらいましたが、女川で銀鮭養殖をしようと決めたのは、年が近い鈴木さんと一緒に働きたいと思ったことも大きいです」。
早坂さんが住み始めて、女川のトリトン・ベースには時々漁師仲間や、さまざまな業種の若者たちが集うようになりました。たわいもない話や、網の直し方など仕事の相談、そして水産業のことをアツく語りあうことも。
「仕事は楽しいですね。まずは仕事を覚えて、効率や利益を考えながら質のいい銀鮭をつくれるようになりたいです。同期入社や同じ年代の知人がいなかったので、引っ越してきた当初は寂しさもありましたが、これからこの場所で信頼できる漁師仲間と出会えることが何より楽しみです」。

みんなで育てた漁師が水産業の未来を開いていく

牡蛎やワカメ、銀鮭など、なにを水揚げするかによって変わる漁の繁忙期。どこの浜でも人手が欲しい時期ではあるものの、その仕事は一般的に地域ごとに固定され、他の浜に赴いて自分の専門以外の魚種を扱う漁師はほとんどいません。そこで鈴木さんたちが考えたのが、労働力のシェア。休漁中の働き手を有効に活用することで、人手不足の問題を解決できないかと考えています。
「例えば、牡蛎漁で生計を立てている浜で働く漁師なら、漁が休みの間に近隣の浜に行き、漁期が異なるワカメ漁やホヤ漁などを手伝えば、漁師個人にとっても収入の安定につながります。将来的には、ひとつの浜でだけではなく地域の人みんなで、複数の漁をこなせる『マルチな漁師』を育てていきたいです」。
鈴木さんが次に目指すのは、若者が安心してこの業界に飛び込める環境をつくること。漁師の拠点となるトリトン・ベースを増やしたり、求人情報や育成プログラムを整理したり、受け入れる側の体制を充実させようとしています。

「まずは三陸で。新しく漁師を目指す人たちが増え、自ら水産業の魅力を発信することで、若い人がさらに若い人を呼ぶ新しいサイクルが生まれたらいいなと、思っています」。
挑戦はまだまだ始まったばかり。「2024年までに1000人のフィッシャーマンを増やす」ことを目指す漁師たちの基地からはじまる物語は、地域の枠を超え、新たな仲間を引き寄せながら、伸びやかに未来へとつながっています。

※農林水産省調べ


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