震災伝承〜なぜ伝承は必要なのか〜

日本たばこ産業株式会社(以下、JT)は、社会貢献活動における東日本大震災復興支援の取り組みの一環として、2013年より東日本大震災復興支援「JT NPO応援プロジェクト」を実施している。2019年1月からは「震災伝承」にかかわる事業への支援を開始。今回は、その伝承活動を協業で行っている日本NPOセンターの田尻佳史常務理事と3.11メモリアルネットワークの藤間千尋共同代表、そして世界防災フォーラム事務局で代表理事を務める東北大学災害科学国際研究所の小野裕一教授、JTでサステナビリティマネジメント部コミュニティインベストメントチームマネージャーを務める濱田尚氏にお集まりいただき、震災伝承、そして防災について語り合っていただいた。

防災と「震災伝承」の重要性

震災伝承に期待されること。それは実際に震災を経験した人々から体験談を受け継ぎ、後世に生かすこと。つまり命を守る術のヒントを得ることではないだろうか。「天災は忘れた頃にやってくる」とは、戦前に活躍した物理学者・寺田寅彦が残した言葉とされているが、小野教授はこの言葉に共感を覚えている。

小野「まさに天災は人々の記憶から忘れられた頃にやってきます。ですから昔の人々は防災に役立てるべく、石碑を建てる、あるいは口述や歌などいろいろな方法を用いて体験したことを後世に残してきました。IT技術の発達した現代なら、その方法はもっと多様化していますから、時代に則したやり方で受け継いでいくべきものだと思います」

東日本大震災の際、岩手県釜石市の小中学生たちがほぼ全員無事だったのは、「津波てんでんこ」という言葉を標語として防災訓練を受けていたためと言われているが、これは標語という伝承のたまものと言えるだろう。

震災直後の石巻市門脇・南浜町(2011年3月30日撮影)

阪神淡路大震災以降、さまざまな災害の被災地に出向いてきた日本NPOセンター田尻氏は、現地で被災者のさまざまなお話を聞いてきた。

田尻「私たちが知ることできるのは、災害を生き残った人のお話です。このことを忘れてはいけません。本来ならその災害で亡くなった方々のお話を聞けることが最も大きな教訓になりますが、実際には難しい。だから、生き残った方々の体験とその体験を補完する客観的事実も含めて伝えていくことが必要になってきます。」

伝承のなかでも体験談・生の声は心に響きやすい。3.11メモリアルネットワークはさまざまな「震災伝承プログラム」を用意し、語り部たちからの言葉を、訪れる人々に届けたいと考えている。

藤間「震災伝承については、個人的体験談を語る語り部の皆さん、それを聞く人たちのほかに、客観的な視点を持ってまとめるサポートをする人の存在は不可欠だと考えています。また、聞く人たちにマッチした語り部を選んで引き合わせることも大事です。例えば生死にかかわる話だけではなく、会社組織がどのようにして再建したのかといったお話を聞くほうがためになるという受講者もいらっしゃいます」

復興への道はまだ半ば

被災地やそこに暮らす人々にとっての「本当の復興とは何か」を考えることは難しい。人によって意見や気持ちはさまざまだからだ。だからこそ、目に見える新たな市街地や宅地の造成、そして海沿いあるいは川沿いに建てられている防潮堤など、復興期間の終わりに向けてハードが整備されてきている中において、広域にわたる各地の草の根レベルで行われているソフトの活動への継続的な支援が欠かせない。

石巻市雲雀野海岸に建設中の防潮堤(2017年11月16日撮影)

藤間「被災各地には震災伝承、追悼のための公園や施設がつくられています。なかでも国と各地の自治体が共同で整備している『復興祈念公園』は規模の大きなものになります。このような場所で伝承活動が続いていくよう、わたしたちもネットワークを生かして情報収集、発信に取り組んでいきたいと思っています。」

復興祈念公園は、2019年度に一部開園(2020年度完成予定)の岩手県陸前高田市、2020年度完成予定の宮城県石巻市、そして2020年度中に一部開園予定の福島県の双葉町と浪江町にまたがるエリアにそれぞれ建設予定となっている。

小野「後世への語り継ぎという面で考えるとき、広島、長崎をはじめとした戦災の伝承は、戦後70年以上経た現在でも継続されています。祈念公園もよいですが、遺構や当時の資料がしっかりと残されている博物館のような建物の存在も大事なのではないかと私は考えています」

学ぶことの大切さ

震災伝承を考えるとき、被災地の若い人たちが学ぶことも大切である。

濱田「私は広島の出身でして、小学校の頃は毎年、語り部さんたちの話を聞き、遺構を見てまわり、資料館を見学するという教育機会がありました。」

藤間「教育といえば、最近は震災伝承プログラムを授業の一環として取り上げる学校も多くなりました。つまり、その当時は幼くて記憶が曖昧だった子どもたちに対し、震災のことを改めて学んでもらう機会が増えているのです」

藤間さんは被災地の子どもたちから直接、「広島の若い人たちは自分が経験していないことをどんな思いで語り継いでいるのかを直接聞いてみたい」といったリクエストを受けることもあるそうだ。

田尻「学校教育もありますが、家族内で語り継いでいくことも大事だと思います。とくに沖縄ではこのことがよくなされているのではないかと感じますね。ただし東日本大震災は県単位ではなく、岩手・宮城・福島と3県にわたって被害を受けた。行政主導ではなかなか県をまたいでの交流や情報交換が難しいところもあると思うので、3.11メモリアルネットワークに期待される役割は非常に大きいものになります」

いろいろな地域の若い語り部たちが集まり、それぞれの思いを語り合う「若者トーク」

多様なスタイルで行われている「震災伝承」

震災伝承の実施方法は実にさまざま。津波が到達した地点への桜の植樹、震災学習列車の運行、民謡の歌詞を変えて替え歌をうたったり、紙芝居や演劇を行ったり。被災箇所を巡りながら、また震災遺構を活用して語り部の話を聞くといったスタイルもある。現地を歩きながらその地点の「過去・現在・未来」の姿や津波の高さなどをARで見ることができるアプリも存在する。

「石巻津波伝承AR」アプリを活用したプログラムの様子

伝承によって世界中の人々とつながる機会も増えた。外国人観光客や研修生の受け入れによる交流のほか、世界中で行われる防災に関する会議やイベントへの参加、そして小野教授らが主導して開催している世界防災フォーラム(第1回は2017年に開催)には世界中の人々が訪れ、防災に関するさまざまなセッションやプレゼンテーションが行われている。

小野「異文化に触れることで、震災、被災への考え方の違いに気付かされることがたくさんあります。そこでわかることは、日本人はハザードマップや警報システムに頼りすぎなのではないかということですね。海外ではもっと自己責任の意識が高いように感じます」

濱田「私は、携帯電話から緊急地震速報のアラームが鳴ったときの周りの人たちの冷静さというか、無頓着な感じに少し危機感を覚えますね」

藤間「とある交通機関で働く人たちを案内したことがあったのですが、彼らが『自分たちは間違えられないのです』と話していたことが強く印象に残っています。つまり避難の案内をしておきながら何も起こらなかったらかえって迷惑をかけて混乱を招いてしまう恐れがある、ということだったのですが、私はそのとき『寛容さが必要だな』と思いました」

濱田「わかります。もしも大事に至らなかった場合でも『何も起こらなくてよかったね』と言い合える世の中になるといいですよね」

左から濱田氏、田尻氏、藤間氏、小野教授

JTは「ひとのときを、想う。」という企業思想のもと、「大切な人のかけがえのないひととき」や「大切な時間」を想う企業だからこそ生み出せる価値を、お届けしたいと考えている。だからこそ、人々が安心して過ごせる世の中を願いながら震災支援を続けている。

世界防災フォーラムについて

世界防災フォーラムは、スイスの防災ダボス会議と連携し、国内外から産・官・学・民の防災関係者が奇数年に集まる国際フォーラム。東日本大震災に関する知見の共有や防災の具体的な解決策の創出等を踏まえ、災害を忘れない努力、「仙台防災枠組2015-2030」の推進及び「BOSAI」の主流化を仙台から世界へ浸透させることを目指す。第2回世界防災フォーラムは、2019年11月9日〜12日まで仙台国際センターで開催予定となっている。
http://www.worldbosaiforum.com/


特定非営利活動法人 日本NPOセンター

1996年設立、民間非営利組織(NPO等)の社会的基盤強化を目指して全国のNPO支援組織、企業等と連携して研修等のプログラムを全国で実施している。東日本大震災では、2011年3月から復興支援事業を展開。被災者の生活再建を目的とする民間非営利組織(NPO等)の支援として、個人、団体、企業の寄付を原資として助成プログラム「現地NPO応援基金」や組織基盤強化、リーダー育成を目的とする研修等を行っている。
https://www.jnpoc.ne.jp/


3.11メモリアルネットワーク

東日本大震災で被災した宮城・岩手・福島を中心に伝承活動を行う個人・団体・拠点を結ぶ民間ネットワークとして、2017年11月に設立。将来にわたり伝承活動を続け、命を守り、活力ある人・地域づくりに取り組むことを目的として、震災伝承や防災・減災活動の「連携」「企画」「育成」に取り組んでいる。次世代への継承を見据えた「若者プロジェクト」や、語り部同士の「学びあい交流プロジェクト」などの連携企画が進行中。
http://311mn.org/

JT東日本大震災復興支援「『ひと』と、未来へ。」

JTグループでは、東日本大震災復興への継続的な支援として、「『ひと』と、未来へ。」をテーマに、「つながり支援」、「なりわい支援」、「にぎわい支援」の3つの領域に取り組んでいます。いつか東北が、復興を遂げるまで。私たちは、「ひと」の「とき」といっしょに歩みながら、未来を想いつづけていきます。

「震災伝承」事業への支援「JT NPO応援プロジェクト」

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