支援先について

認定NPO法人カタリバ(岩手県大槌町)

https://www.collabo-school.net

津波によって町の大半が崩壊した岩手県大槌町。認定NPO法人「カタリバ」が運営する「コラボ・スクール大槌臨学舎(おおつちりんがくしゃ)」では、子どもたちが安心して勉強できる環境を提供している。そこで行われる課題解決学習プログラム「マイプロジェクト」に参加した子どもたちが身に付ける力は、大槌町の未来を変えるかもしれない。

大槌湾に囲まれ、水産業が盛んな岩手県大槌町。そんな町の大半を震災による津波が襲い、住居倒壊率は64.6%と被災地で3番目に大きな被害を被った。現在は、町庁舎が崩壊したままの姿で残されている一方、道路は舗装され、電柱が数多く並び、この1年で住宅も建ち始めた。町の再建がやっと進み出した兆しを見せる。
そんな町の一角に、木造でつくった仮設の校舎がある。

「こんにちはー」「あれ、今日来る日?」「うん、自習しに来たー」。

平日の16時を過ぎた頃、ブレザー姿の男子高校生やジャージー姿の女子中学生たちが次々と校舎へ入って行く。

放課後の「学びの場」と「居場所」という役割

ここは認定NPO法人「カタリバ」が運営する放課後学校「コラボ・スクール大槌臨学舎」。震災後、仮設住宅で暮らす子どもたちが少しでも集中して学習できる環境を提供することを目的に、2011年12月に開校した。「高校受験を控えた子どもへの学習の場の提供から支援が始まりました。またそれだけでなく、震災の影響で気持ちが不安定になる子どももいる中で、放課後を安心・安全に過ごせる『居場所』としても役割を果たしてきました。町内はまだ土盛り工事が続いている場所も多く、公民館など子どもたちが学んだり、自由に集まれる遊び場がないのが現状です」(同団体の横山和毅(まさき)さん)。

あれから6年。町内の仮設住宅への入居率は24%と依然高い状況にある中で、子どもたちは週2回開かれる数学や英語の授業を受けたり、自習したりする場として、小学3年生から高校生まで多い日で1日約100人が通う。

勉強を教える8人のスタッフは、元会社員や元塾講師など多彩で、熱心に子どもたちと向き合う。放課後から20時40分まで開放される自習室には、常に数名のスタッフが常駐し、子どもたちの質問に答える。
「おーー! できてるじゃん!」とスタッフから褒められた直後の子どものうれしそうな顔が印象的だ。
「僕らに加えて、将来教育現場で働くことを目指しているインターン生や学生ボランティアもいます。生徒にとって年の近いお兄さんやお姉さんには勉強や進路や家庭の悩みも話しやすく、またボランティアの学生生活の話などは生徒も興味津々で聞いています」と横山さんは話す。

毎月の自習時間の合計をグラフで貼り出し、「見える化」に

「大槌臨学舎」では、子どもたちが学習する習慣を身に付け、“やる気スイッチ”を入れるさまざまな“仕掛け”を用意している。例えば、毎月の自習時間の合計が一目で分かるグラフを、「クラス対抗別」や「個人別」で自習室のボードに掲示しているのもその1つ。「子どもたちの現状を“見える化”することで、自分や周りの現状が把握でき、自身の目標も見直せる。“競争心”を芽生えさせ、“勉強への意欲”を促す効果もあります」(横山さん)。

さらに高校生が取り組む「マイプロジェクト」というプログラムは、「子どもたちの人生を変えるきっかけ」になることもある。「一人ひとりが地域や社会の身近な課題に対して活動を起こす」ことを目的に、スタッフのサポートを受けながら、子ども自らが考えアクションを起こし、プロジェクトを達成していく活動だ。

地元の人にこそ、地元の良さに気づいてもらいたい!

大槌高校2年生の古川海睴(ひかる)くんが「マイプロジェクト」に挑戦したのは、2016年10月に東北の高校生たちが集まり「地元や社会のために何かしたい」という思いを形に変えるためのワークショップ「MY PROJECT START UP合宿 『東北カイギ』」に参加したのがきっかけだった。同世代がさまざまな意見を出す姿を見て刺激を受けたという。

「地元の人に大槌町に住んで良かったと思ってもらいたい」。そんな思いから古川くんの「マイプロジェクト」はスタートした。彼は幼稚園の頃に、仙台から大槌町に移り住んだ。小学校低学年の時、遊び場所から家に帰る途中、道に迷ってしまった。すると、地元の大人が「どうしたの?」と声をかけて家まで送り届けてくれた。「夜道を歩いていると、ほとんどの大人が『早く帰らなきゃだめだよ!』と注意してくれたり、心配してくれたりしますが、仙台ではそんなことは言われないと思う。口は悪いけど(笑)、人が良くて優しい人が多い町だと思うんです。そんな町の良さをあらためて地元の人に気づいてもらいたいと考えました」。

「この町を好きになってもらうためには?」「町の良さを知ってもらうためには?」「町に興味を持ってもらうには?」大槌臨学舎の先生と一緒に課題を解決するための方法を考えた。そうして「郷土料理」「自然」「人柄の良さ」、そして「体験すること」というキーワードにたどり着き、「小学生のための大槌町1日体験」をいう企画が生まれた。

マタギのおじいさんが、協力者に名乗り出る!

タイミングよく協力してもいいという、力強い助っ人が現れた。カタリバのスタッフが探して来てくれた、大槌臨学舎から車で15分ほどのところ住むマタギをなりわいとする藤原勲さんだ。古川くんは早速、藤原さんに会いに行き、「小学生にこの町の良さを伝えたいんです。郷土料理を食べてもらったり、自然のものを使ったおもちゃづくり体験をしてもらったり、この町に関するお話もしてあげたい」と自分のやりたいことを伝えた。古川くんの話をじっと聞いていた藤原さんは、快く引き受けてくれた。さらに「どうせなら、皆でうちに泊まればいい」と言い、近所の人たちにも協力してもらえるよう声をかけてくれた。
「郷土料理」は、熊肉や鹿肉を使った料理をおばあさんたちと一緒に作って食べることになった。竹などの自然のものを使ったおもちゃの作り方も教えてもらえることになった。夜は、小学生が退屈しないように、“おしゃべりが上手”なおじいさんに来てもらって地元の昔話をしてもらうことに。こうして、泊まりがけの「大槌1日修学旅行」という企画が具体的になった。

地元の大人たちの温かい後押しに感動した古川くんの中で、「参加して損はさせない、楽しかったと思ってくれる修学旅行にしたい!」という思いがますます強くなった。先生からたくさんの赤字を入れてもらって作成した保護者向けの企画書を手に、小学生クラスの授業時間を少しもらって、子どもたちに修学旅行について説明した。
「誰も興味を持ってもらえなかったらどうしよう……」。古川くんの心の中は不安でいっぱいだったという。しかしそんな不安はすぐに消えた。その場で「面白そう!」「行きたーい!!」という子どもたちの声が上がったのだ。

 修学旅行当日、5人の小学生が参加した。さらに、古川くんをサポートするために4人の高校生が参加してくれた。小学生は地元のおじいさんたちに手取り足取り教わりながら、竹を切ったりなめしたりして弓矢づくりに夢中になった。夜はおばあさんたちが腕を振るってくれた熊や馬肉を使った料理をおいしそうに食べた。何もかもが初めての体験だった小学生たち。修学旅行を終えて、「面白かった!」「またやってほしい!!」と古川くんに話したそうだ。

「オーナーシップ」を持った子どもを1人でも多く育てたい

古川くんは「挑戦することは勇気がいるけど、迷った時にコラボのスタッフが『それでいいじゃん!』と後押ししてくれたり、大人の人たちが協力してくれたりしたことは励みになりました。『自分でもできる』という自信にもつながったと思います」と振り返る。地元の大人に協力してもらえたことで、「人と関わる仕事」にも興味が出てきたそうだ。

「マイプロジェクト」は、自分の人生に当事者意識を持ってアクションを大切にする「オーナーシップ」力を育てる目的があるという。「一歩前に踏み出して、課題に対して当事者として動くことの大切さを伝えていきたいし、迷った時には選択肢やヒントを与えることができればするし、なければ一緒に悩みます。子ども自身が考えて決めていく経験ができる、そんなサポートをしていきたい。1人でも多くのオーナーシップを持った子どもたちが、未来の大槌町を担う一員になってくれればうれしいです」(横山さん)。

古川くんに、次の「マイプロジェクト」の構想について聞いてみた。「大槌町にはまだまだ僕らの知らない場所があるので、皆に知ってもらうイベントをもっと考えたいです。今年の夏くらいに2回目の修学旅行も企画したいし。例えばこの町には滝が2つありまして、その1つが……」。古川くんの、「この町の良さを伝えたい」「住んでよかったと思ってもらいたい」という思いはまだまだ尽きない。

NPO法人カタリバとは:
高校生へのキャリア学習プログラム「カタリ場」と被災地の放課後学校「コラボ・スクール」を通じて、「生き抜く力」を備えた子ども・若者を数多く輩出していくことを目指す。