支援先について

小高産業技術高等学校(福島県小高区)

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避難指示が解除されたことにより、今春「小高商業高校」と「小高工業高校」の県立高校が統合し「小高産業技術高校」が誕生する。その両校のアニメ好きな生徒たちが、統合前に地元をPRするためのアニメ製作に取り組んだ。約半年間の経験は彼ら彼女らの中で今後どんな風に活きるのか。

2016年7月、福島第一原子力発電所事故から約5年ぶりに、福島県南相馬市の大半のエリアで避難指示が解除された。震災の爪あとがまだあちこちに残る中、故郷に帰還するのは高齢者が多く、少子化や過疎化、原発問題により、地域の財政を担う働き手世代や雇用が増えないことに、町の今後の不安は拭えない。

そんな中、桜が咲く頃に明るいニュースがある。同市小高区の小高商業高校と小高工業高校の県立高校がこの4月に統合し、小高産業技術高校が新設されるのだ。震災後、避難指示地区に指定された両校は、住民の県内外の避難に伴い、生徒数が激減。通学できる両校の生徒は小高区に隣接する原町区の仮設校舎で授業を受けてきた。
小高産業技術高校の新しい校舎は、小高工業高校をリフォームした建物。この春進級する新3年生、新2年生、そして新1年生が通うことになる。現在も新1年生の教室が入る予定の校舎を急ピッチで建設中だ。
小学生ぶりに故郷の小高区に帰る生徒も多く、開校すれば小高地区の現在の居住者数が1,198人(2017年3月2日時点)に対し、通学する高校生の数は約500人になる予定だ。高校生たちの笑い声が聞こえてくるだけでも町の活気につながると、地元の人々は期待する。

“技術”を活かして復興に貢献する人材を育てる

小高産業技術高校の一番の特徴は、地域の復興と地元産業界が求める人材育成が目標の学科「産業革新科」が新設されること。福島県沿岸部では、ロボット産業や新エネルギー産業の集積地を目指す「福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想」があり、商業と工業の専門教育を活かして復興に貢献する人材を地元で育てる狙いがある。
また、校歌の作詞を、2015年に南相馬市に引っ越した作家の柳美里さん、作曲をシンガー・ソングライターの長渕剛さんが務めることでも注目されている。

福島ガイナックスと協力してアニメを製作

統合・新設前から注目される小高産業技術高校だが、すでに両校の生徒が協力して取り組んでいるプロジェクトがある。それが、福島県田村郡三春町にあるアニメ制作会社福島ガイナックスと、2016年7月から一緒に進めている「小高区PRアニメ製作プロジェクト」だ。

ガイナックスといえば、『新世紀エヴァンゲリオン』『ふしぎの海のナディア』『トップをねらえ!』などのアニメ作品が有名。両高校の統合を機に、復興と学校のアピール、地域貢献も兼ね、学校側が福島ガイナックスにアニメ制作の協力を要請したのがプロジェクトの始まりだ。完成した作品は、8分程度のものになる予定。新しい高校のホームページで公開するほか、学校説明会などで上映する。

今回のプロジェクトの提案者である小高商業高校商業科の菅野光先生の呼びかけに反応して参加した有志は、アニメが大好きな両校の1、2年生9人。「ガイナックスと組んでアニメの制作過程を体験できることが魅力的だった」「プロが使っている音響機器を見てみたかった」「企画を立てて作品を作るクリエイティブな仕事に興味があった」「声優をやってみたかった」など参加動機は様々だ。

同プロジェクトは、月1回程度のペースでワークショップを開き進めてきた。講師を務める福島ガイナックス社長の浅尾芳宣さんやスタッフの指導を受けながら、生徒たちはアニメのシナリオの骨子となる「プロット」や「絵コンテ」などを考えていく。

小高区の「いいところ」って何?

初回のワークショップは、「テーマを決めること」から始まった。話し合った結果、母校のある「小高区を知ってもらい、応援してもらうこと」をテーマにした。そこから「小高地区を多くの人に紹介する時に何をアピールすればいいか」と考え、「小高のいいところ」「良くないところ」を各自で調べて持ち寄ってディスカッションを重ねた。
実はメンバー全員が小高地区出身ではない。このプロジェクトに参加して初めて小高区を意識し、インターネットなどを使って調べた生徒ばかりだったという。小高区の良い点は「花火大会がある」「祭りがある」「イルミネーションがきれいなスポットがある」などがあがった。一方、良くないと思う点には「店舗が少ない」「夜道が怖い」「町がさびれている感じがする」といった正直な意見が数多く出た。小高地区を見つめる機会を持ち、治安や生活利便性が良くないといった町の問題に直面したことで、「町が栄えるように店舗を増やす」「県内外の人に来てもらえるイベントなどを企画して復興をアピールする」などの改善案が出てきたという。

ストーリーは、各自が考えて持ち寄ったプロットから投票で一つに絞り、肉付けして膨らませた。ざっくり説明すると、東京から転入してきた女子高生を主人公に、地元の若者の交流や挑戦を描いた話だ。原発事故以降の小高区の風景や、地方ならではの伝統行事も盛り込み、小高の町のイメージを映像でできるだけ分かりやすく伝える。

また、プロットからシナリオ、絵コンテへとつなげるために、背景などを具体的に決める必要があると考えたメンバーは、資料を収集するために小高地区の町を歩いた。小高駅や神社、駅前にある旅館の2階から景色を撮影し、旅館の主人に小高地区についての話も聞いたという。
「『想像していたより町に人が歩いているね』など、現地に行ったからこそ分かる小高区の意見も出てきましたし、地元の方と交流したことで彼ら彼女らも何かを感じてくれたと思います」と菅野先生は話す。

くたくたになったアフレコ体験

メンバーは大きく製作チームとイラストチームに分かれ、勉強の合間をぬって締め切りまでに必死に作業を行った。「小高区PRアニメ製作プロジェクトチーム」代表の遠藤早也乃さんは、監督という立場で各チームをまとめつつ、自身は絵コンテを描いた。「何もかも初めての中で、伝えたいことを分かりやすく伝えるために描きあげた絵コンテ制作が、一番苦労しました」(遠藤さん)。時間をかけて描いた絵コンテに色が付き、キャラクターが動く映像を見て、メンバー全員の感激はひとしおだったという。

「大変だけどとても楽しかった!」と全員から特に好評だったワークショップが、アフレコ体験だ。プロの声優ブリドカットセーラ恵美さんを講師に迎え、スタジオでの指導のもと自分たちが作ったキャラクターに声を吹き込んでいった。メンバーの中には声優希望の生徒もおり、憧れだったアフレコ体験に悪戦苦闘しながら挑戦したという。
「8分程度のアニメーションの予定ですが、声を入れるのに3時間以上もかかりました。プロのすごみを実感! くたくたになりましたが(笑)、滅多に経験できないことだし面白かった!」と生徒たちは興奮気味に話す。

“好きなもの”を通して見えてきた地元の現状

当初は“地域PR”という目的より、アニメ製作に興味を持って活動に参加した生徒たち。しかし、好きなものに熱中していくうちに、小高という地域を自然に知る機会になった。菅野先生の狙いはまさにそこにあったという。
「学校PRとして効果があるもの、そして生徒たちがワクワクしながら自主性を育めるものは何かと考えた時、『アニメ』が一案として浮かびました。あのガイナックスさんと一緒に製作過程を体験することで、仕事について学ぶ『キャリア教育』になるとも思ったんです。さらに、自分たちが通う高校がある小高地区、すなわち福島の現状を少しでも知る機会になるだろうと考えました」

メンバーに卒業後の進路を聞いてみた。すると全員が小高区や今住んでいる地域から一度飛び出し、仙台をはじめとした都市で勉強したり、働いたりしたいという。そうした意見に「少し寂しい」と思う人もいるだろうし、若者離れとなる地方特有の姿だととらえる人もいるだろう。しかし、一度外に飛び出してそれぞれが描く可能性に挑戦することは、決して悪いことではない。「県外に住んだり、一人暮らしを経験したりすれば、故郷の良さは必ず分かるもの。故郷をPRするために皆で一生懸命考えた時間が、いつか彼ら彼女の中で地元を思い出すきっかけになったり、『地元のために何かしてみよう』といった気持ちに少しでもなったりしてもらえればうれしいです」と菅野先生は語る。「このメンバーだったら、卒業してバラバラになっても集まりたいし、きっと集まるよね」と生徒たちも顔を見合わせて笑う。

彼ら彼女らの力作は、3月19日に同区の浮舟文化会館で発表される予定だ。その後の活動は未定だが、プロジェクトの内容が変わっても「地元が少しでも元気になるようなチャレンジ」「生徒たちの自主性が芽生えるようなチャレンジ」は、新しい校舎でもきっと行われるだろう。