支援先について

福島県立ふたば未来学園高等学校(福島県双葉郡)

http://www.futabamiraigakuen-h.fks.ed.jp/

福島県双葉郡広野町に新設された「福島県立ふたば未来学園高等学校」は、地域を復興する人材育成を目指し、「課題解決型学習」や「国内外での研修プログラム」を取り入れた先進の学び「未来創造型教育」を実践している。そうした教育を受け、この春3年目を迎える1期生が考え始めたことは何か。

2015年4月、東京電力福島第一原発から30km圏内にある双葉郡広野町に、中高一貫校「福島県立ふたば未来学園高校」は開校した。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故により、地方が直面する人口減少、少子高齢化、過疎化などの課題が先鋭化しているこの地域で、社会に貢献できる能力を身につけ、社会が抱える諸課題に挑戦できる生徒の育成を目指すため、国のバックアップの下、県や双葉郡8町村が足並みをそろえて新設した学校だ。
震災と原発事故で、小学生の頃から避難生活や避難先の仮設校舎での授業を余儀なくされていた生徒を含め、県内外から1学年約150人の生徒が本校舎(福島県双葉郡広野町)、猪苗代校舎(福島県伊苗代町)、三島長陵校舎(静岡県三島市)の3つの校舎で学んでいる。本校舎のうち3分の1の生徒が寮生活を送っているという。

原子力災害からの復興を考える「未来創造探究」

同校は上級学校の進学を目指す「アカデミック系列」、トップアスリートや生涯スポーツ社会のリーダーとして活躍することを目指す「トップアスリート系列」、工業や農業、商業、福祉の各分野の職業人を目指す「スペシャリスト系列」の3つの科目群がある。 「原子力災害からの復興を果たすグローバルリーダーの育成」をテーマとした教育プログラムが文部科学省の「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」の指定を受け、地域復興を担い、国際的に活躍できる人材を育てるための教育開発を展開している。

一番の特徴である「課題解決型」学習は、自らの頭で考えて行動し、課題を克服していく力を育成することが目的だ。「未来創造探究」という探究の授業では「原子力災害からの復興」をテーマの中心とし、原子力防災、再生可能エネルギーなど6つの探究班に分かれて、持続可能な地域づくりの取り組みなどを課題にした探究を行っている。チェルノブイリ原発事故の被災国であるベラルーシを訪ね、原子力災害からの復興について学んだり、ドイツの「環境首都」とされるフライブルクで再生可能エネルギー開発施設の視察や、環境保護政策に関わる講義を受けたりする海外研修もある。
バドミントン、硬式野球、レスリング、サッカーを強化部に指定するなど、部活動にも力を入れている。そんな中、注目されているのが演劇部だ。演劇に興味があった1期生の出雲優花さんが部長となり、メンバー6人を集めて同好会を結成。顧問の小林俊一先生のサポートを受け、結成1カ月にしてコンクールに挑戦した。昼休みに食堂で突然劇を披露したり、新入生に部活を紹介する時間に寸劇を演じたりして、演劇部の存在を全校生徒にアピール。2期生を迎えて部員が増えた昨春には、部に昇格させた。1年生10人、2年生6人で活動する。

自分の気持ちは「震災当日」から「今」のどこにあるのか

演じる作品は、自分たちの実体験から生み出す。皆でアイデアを持ち寄り、出雲さん、日下雄太くん、佐藤美羽さんが中心となって骨子となるプロットを作成。それをもとに佐藤さんが脚本に仕上げていく。
そんな部員たちにとってターニングポイントといえる劇が、オリジナル脚本の「数直線」だ。震災と原発事故以降、部員に降りかかった環境の変化、それに伴う心境の変化を表現した作品。2016年度の県高校演劇コンクールで優秀賞を受賞し、今年2月には東京での公演を成功させた。

物語は、東京の学校になじめず、不登校だった女子生徒「サクラ」が母の故郷にある、ふたば未来学園高校の存在を知って入学する。さまざまな境遇の友だちと心を通わせつつ、福島の現状やそこで暮らす人々の心情を知り、主人公なりの答えを見つけていくというものだ。

「数直線」というタイトルは日下くんが考案した。「メモリー(思い出)」と「目盛り」の意味をかけ合わせている。劇中では、サクラが「皆さんは今、どこにいますか?」と出演する部員たちに問うシーンがある。舞台には、「2011年3月11日午後2時46分」から「今この瞬間」までが刻まれた時間軸の目盛りが敷かれ、各々が思う「時間」に立つ。「2017年の今」に立つ者や「震災当日」に立つ者などさまざまで、“今の心情”を表現する福島の高校生の“リアル”が観客の胸を打つ。

「部員の気持ちが軽くなってほしい」と書いた脚本

「震災後、それぞれどんな生活を送っていたのか」———。脚本を作成するにあたり、胸の奥に閉まっていた避難体験を部員同士で初めて語り合った。
「学校では『震災』や『原発』について考える授業があるのに、友だち同士で震災後の暮らしについて話さないようにしていたし、聞いてはいけない雰囲気が漂っていました。そんな中で実際に聞いてみると、いじめや差別といった想像以上につらい経験が多く、私は『聞いて申し訳なかった』と思ってしまったんです。良い脚本になると思って、皆の経験を盛り込んだわけではありません。多くの人に観てもらうことも目的じゃなかったと思う。演劇を通じて心の中に抱えていた思いを外に放出することで、部員たちの気持ちが少しでも軽くなればいいと思いながら、脚本を書いていました」と佐藤さんは振り返る。

震災後の実体験を劇で表現する事に対し、最後まで気が進まなかった部員もいた。皆で話し合い、その部員の気持ちも大切にしたいという思いから、「これをやるんだったら部活を辞めます」というセリフを台本に入れた。

 

「自分たちの本音をストレートに表現することで、観客がどんな風に感じるのかと想像すると怖かったし、経験や思いを表現することに、どんな意味があるのかも最初は分かりませんでした」と佐藤さんは話す。しかし昨秋、地区コンクールで上演した際、審査員を務める富岡高校の元校長先生が涙ぐみながら演劇の感想を部員たちに話してくれた姿を見て、抱えていた不安が少し小さくなったという。

「部員それぞれの思いを詰め込んで作り上げた作品が、観客に何らかの形で響いたんだなと思いました。素直にうれしかったし、自信になりました」と出雲さん。そして「震災後の経験を皆で告白し合ったことが良かったのか、正直今も分かりません。でも、この演劇部のメンバーとは卒業後も集まりたい。この学校でそんな風に思える仲間と出会えたことはうれしいです」と続ける。

「考え続ける」ことの大切さに気づく

著名人や専門家といった多くの人が協力し、さまざまな可能性を秘めた教育カリキュラムが用意されたふたば未来学園高校。「生まれ育った双葉郡広野町の復興に本気で携わりたいと思っていた」と話す日下くんは、新設校で学ぶことに希望を持って入学した1人だ。最初の1年は、新入生代表、生徒会副会長として、授業で学んで自身が思い描く理想や希望をあらゆる場面で語っていた。しかし、震災をテーマに書いた自身の演劇のプロットを見て、「僕が書く内容はうそっぽい……。きれいごとや幻想を追い掛けているだけなのかもしれない」と思い始めたという。

なぜそう思うようになったのか。「『震災』や『原発』をテーマに授業を受ける際、必ずついてくるのが『地域の復興』という言葉です。復興が大事なのは分かるし、理想を追い求め、実現に向け行動しなければいけないことも分かります。でも、自分ごととして捉えた時、この先どうなるか分からない混沌とした状況で、大人が理想とする復興と実際の生活から得る実感があまりにも乖離していると感じました。地域によってやるべき復興の内容や進み方、速度も違うのに、「復興」というキーワードにひとまとめにして表すことにも違和感がある。それに気づいた時、それまですらすら口から出てきた理想論が出てこなくなった。『復興』と先生たちが言うたびに、『復興って何』と返したくなるんです」(日下くん)。

日下くんの話に佐藤さんや出雲さんも同調する。「この学校に入り、授業や演劇で震災や原発のことを深く考えるようになり、『復興という言葉の意味』をあらためて考えるようになりました。今も分かっていません」(佐藤さん)。「『町の復興は進んでいるけど、人の心の復興は進んでいない』というキャッチコピーを見た時、何をもって復興というのか、復興の定義について考えました。死ぬまでその答えは見つからないかもしれない。でも、『答えが出ないから考えなくていい』でないことは分かっています」(出雲さん)。

  未来を創る教育を目指すことを目的に生まれた、ふたば未来学園高校。震災から6年続く混沌とした状況下で、同校の教育を受ける生徒たちは「復興とは何か」という原点に立ち返り始めた。「考え続けること」が必要だと気づいた彼らが、10年後、20年後に見えてくるものは何だろうか。

福島県立ふたば未来学園高等学校
http://www.futabamiraigakuen-h.fks.ed.jp/
※グローバル・リーダー育成に資する教育を通して、生徒の社会課題に対する関心と教養、コミュニケーション能力、問題解決力などの国際的素養を身につけ、将来、国際的に活躍できるグローバル・リーダーの育成を図ることを目的とした教育。